キカイに殺された男 (2)

西豊島署の捜査官三橋恒久巡査部長は憂鬱だった。
捜査一課の部長刑事として様々な事件を扱ってきたが、まさかベッドを取り扱うとは思わなかっただろう。病気や怪我とともに戦うこの在宅医療システムのベッドは、健康な人間からすれば異様な機械のかたまりにすぎない。

大岩隆を殺した犯人はこのベッドであることは間違いない。しかし、法律はこのベッドをさばくことはできない。三橋はこの患者の死亡という事実は、病状の悪化による死亡なのか、不慮の事故による死亡なのか、あるいは病院が退院させて在宅医療に切り替えたのが原因なのか、だとすれば業務上過失致死の疑いが発生する・・・。

ただ、この自分が呼ばれた理由は実に納得いくものではなかった。
三橋部長刑事は憂鬱だった。


家族が異変に気づき病院と連絡を取ったのは6日金曜日、朝7時を回ったところだった、
病院側はデータ転送をいったん解除して再度接続し直した。そしてデータの読みとりを再度行ったとき、初めてシステムは正確なデータを病院に送り返してきた。

呼吸・・・停止
心拍数・・・0
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人工呼吸器 停止中
転送データ 異常なし
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すぐに救急車の手配がなされ、担当医師は除細動の指示を行ったが、その効果は無かった。

病院に搬送されてまもなく、担当医師は死亡を確認した、すでに対処の余地はなかった。
担当医師は、死亡の理由を病状の悪化とすると説明したが、医療システムのアラームが作動していないことについての説明はなかった。

家族は病院から帰宅してまもなく、警察へ通報した。

そして、その通報が行われてすぐに三橋部長刑事は刑事1人と鑑識課員1人を連れて、大岩隆の自宅を訪れた。
午前11時頃のことである。