キカイに殺された男(3)

殺人事件なら、もっと大勢でやってくるはずだが、電話の最初で殺人と聞かされても、続きを聞くと、犯人はなにやら訳の分からないシステムである。
三橋はとりあえず同じ一課の刑事白瀬正嘉と鑑識課員1人連れてやってきたのだが、
大岩の自宅には家族のほかさすがに貿易会社の会長ということもあるのか、会社の関係者らしい人間が何人も来ているようであった。
インターホンを鳴らし、用件を伝え、玄関に通されると、大岩の妻とおぼしき人物が出迎えていた。
「あら、3人だけですか」
大岩の妻の態度も、夫が殺されたのに3人しか来ないのか、といった感じでやりきれない思いではない碇の矛先があちらこちらに飛んでいるようだ。

しかしながら、電話で聞く限りでは、業務上過失致死とみて捜査するのが妥当であるし、とても殺人事件とは思われない。
どちらかというと多人数で捜査する必要があるとすれば病院や医療関係だから、いくらたのまれても自宅に多人数で押しかけるのは、たとえ希されても迷惑であるし、どうせ、邪魔者扱いされるのが行き着くところであろう。

家族から話を聞く前に大岩が死亡した時に使用していた在宅医療システムのベッドがある部屋に、三橋ともう1人の刑事と鑑識課員の三人が入り、現状を確認した。

捜査一課で、部長刑事としていろいろな事件に関わったが、ベッドを調べるのは家宅捜索の時くらいである。
しかし、今回はベッドに対して取り調べを行おう事になるから、話はさらにややこしくなってくる。
同伴の白瀬刑事も、鑑識課員も同じくお手上げ状態で全く何してよいか分からない。とりあえず、病院への事情聴取を行うこととこのベッドを調べること決まったが、アプローチの仕方が分からないので専門家を呼ぶことにした。


基本的にこのベッドを調べる必要があるが、どうやって運び出すかが問題となる。もちろんこのベッドはレンタルされているので家族の了承以外に医療機器メーカーや病院への手配も必要だ。
本格的な捜査をはじめるには、大岩の遺体はすでに検屍指定病院に搬送されて司法解剖がなされている。その結果を待たねばならない。
それまでに、科学捜査研究所からコンピュータの担当者を呼んで、データの保存作業やプログラム解析の依頼をするなど、3人で十分な人数であっても、やることはたくさんある。

三橋は科学捜査研究所に連絡を入れた後、担当者が来るまで家族の話を聞くことにした。

三橋はどうせ家族から話を聞いても無駄だろうと思うのだった。近いうちに病院関係者への聴取をするかもしれないなら、自宅へはほかの人間を向かわせて、自分は手始めに病院に向かうべきだった。

家族の話はさほど興味の湧くものではなかった。確かに病死ではなく殺害されたとなると保険の給付金は高くなる。
このシステムが以下に金がかかり邪魔なものかというのは分からないでもないが、それより来年あたりこの家の玄関を国税局の職員が入りそうな気がしてならない。
もちろんすんなり事件が解決していればの話なのだけれども。

家族の話は聞いていてあまり得るものはなかったかもしれない。メモをとる気にはなれなかったが、白瀬刑事はこまめに録音をしていた。
科学捜査研究所のコンピュータ担当、村正柊一が大岩宅を訪れたのは午後4時少し前のことだった。家族から話を聞く作業はそれまで絶え間なく進んでいた。